0355.水を運び、飲ませる
水を欲しがる鹿のため、私は急いで水場まで駆けて行きました。
私はそのころ、四つ足ではなく、二本足で立つことが出来るようになっていました。
雌熊は時々高い所にある食べ物を捕る時に二本足で立ち上がっていましたので、それを見た私も真似をしていたところ、少しずつ二本足で立てるようになり、やがて直立歩行できるようなったのです。
水場に着いた私はまず、ごくごくと喉を鳴らしながら水を飲みました。
そして、口にたくさん水を含み、また急いであの鹿のところに戻りました。そうして彼の口元に自分の口を近づけ、そっと彼の口の中に水を流し込みました。
彼の口の中に流し込めた水は、ほんのわずかでしたが、彼は大きく下を鳴らしました。
彼のよどんだ目が一瞬、光を取り戻したかのように見えました。
私は、またすぐさま水場に戻り、同じように水を口に含み、飲み込まないように注意しながら、彼の元に水を運びました。
そのたびに彼は、喉を大きく鳴らし、わずかばかりの水を必死の思いで取り入れようとしました。
そんなことを何度もしているうちに、私はすっかり疲れ果て、前脚(両腕)も後ろ脚も火がついたかのように熱を帯びていました。
そこで、私は水場で前脚と後ろ足の両方を冷やすことにしました。
→ 筆者 グリーフケア・セラピスト 中野日出美の プロフィール
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