0359.私たちのテリトリーへの侵入

私が育った場所は広いジャングルのような場所でした。

そしてその広いジャングルの中には、いくつかの動物のテリトリーがあったようです。

その年は、なんらかの異常気象で今まで成り立っていた食物連鎖が崩れました。

そして隣のテリトリーから私たちのテリトリーへの侵入が始まりました。

私たちのテリトリーの小動物たちが時々、隣のテリトリーの肉食動物たちに襲われるようになりました。

もちろん自分のテリトリーでも肉食動物が草食動物を狩るという食物連鎖はありましたが、それは、この世界で生きていくうえでは自然の淘汰だと感じていました。

しかし、ある日私がいつも身づくろいをしてやる小さな鹿によく似た草食動物が、無惨な姿で食べつくされているのを発見した私は、わけのわからない憎悪に駆られました。

それは今まで感じたことのない激しい感情でした。

明らかにまだまだ生きる時間が残されていた温かくしなやかな肉体が、無惨に引きちぎられ貪られていました。

彼の母親もまた、彼と同じく仲間達よりも一回り身体の小さい草食動物でした。

彼の母親は、彼の亡骸を遠くて見て、空に向かって喉を振り絞るように「くうーー」と啼きました。



→ 筆者 グリーフケア・セラピスト 中野日出美の プロフィール

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