そしてきくさんは『源氏物語』の葵の上が好きなのだと話してくれました。
そこで私は紫式部は今あなたと同じ時代に生きているのですかと聞いてみました。
するときくさんは「違います。生まれる前から『源氏物語』はありました」と答えました。
私はそれまでの喜久乃さんの生活風景から今回の前世が平安時代のものではないかと思っていました。しかしこの返事から察するにもう少し後のことなのでしょうか。
「きくさんの生きた時代は平安の頃ですか?」
「はい、そうだと思います。たぶん後期の頃なのではないかと思います」
私にとっては平安時代は平安時代であり、前期も後期も違いはよくわかりませんが、たとえば昭和といっても前半と後半では人の感情も政策も文化も大きく変化しています。
そう考えると平安時代でも生活の風景はその時流によって微妙に違うものなのでしょう。
とりあえず国風文化を思い描きながら誘導することに決めた私は、さらに質問を続けました。
「葵の上のどんなところが好きなのですか?」
「・・・毅然としたところ・・だそうです」
後で聞いたところによると今生での彼女は特に葵の上に思い入れはないそうです。面白いですね。