「『こいつにしよう』とは、どういう意味ですか?」
次から次へとセンセーショナルな発言が飛び出す中でも、この言葉は飛びぬけて衝撃的です。しかし、相変わらずジュリアンは、眉1つ動かさず答えます。
「この男を踏み台にしようと決めたのです。パトロンにして生き抜こうと決めました。」
「踏み台ですか・・・あなたは強いですね」
この私の言葉に、平坦だったジュリアンの表情に、わずかな変化が表れました。
「・・・私はいつ死んでもいい・・・と思ってきました。いつでも過去が私を追ってきて・・・走り続けていないと、その過去に追いつかれてしまう・・・夢にまで過去が出てきて・・・
だめ・・・ノイローゼのようになってしまう・・・私は生まれ変わったんだ・・・生まれ変わったんだ・・・」
ジュリアンは絞り出すように言いました。
こんなに精力的に生きていながら、いつ死んでもいいと言うジュリアンの心の内はひじょうに複雑でした。
貧困ゆえに森の奥の小さな小屋に置き去りにしてしまった母親と弟の亡霊に怯え、その悪夢から逃れようと、彼女は走り続けてきました。
そして、今、過去の自分を清算しなければ生きていくことが出来ないと言っているのです。