私は少し一人前になったように感じていました。
ただし、それは言語で思考していたのではなく、あくまでも感覚や感情レベルで感じていたのです。
生まれてから言語に触れたことがない私は、言葉というものを持ってはいませんでした。
でも、雌熊の温かいぬくもりや乾いた干し草のような匂いをしっかりと感じていました。
ようやく1人で水を飲んだり、食べ物を探したり出来るようになったとはいえ、他の動物達と比べ、私はひじょうにひ弱でした。
他の動物達は早く走るための柔軟な筋肉や長い四肢を持っていました。また身を守るための高い跳躍力や鋭い牙や爪、撥水性を兼ね備えたつややかな毛皮を持っていました。
しかし、私には、歩くにも走るのにもアンバランスな四肢と脆弱な薄い皮膚で覆われたガリガリな骨ばった体と、物を食べる以外役に立たない小さな歯とすぐに削れて丸くなってしまう薄い爪しかありませんでした。
同じテリトリーに共存する動物達比べ、脆弱で異形な体を持った自分を私は、恥ずかしく思っていました。
そして、いつも私を庇ってくれる雌熊に申し訳なく思っていたのです。
なんとか、このテリトリーの中で、自分の存在意義を感じたいと強く願っていました。それが私のたった1つの願いでもあり、生きるための目標でもありました。