話し始めたときは、鷹揚だった彼女の口調は、次第に切羽詰ったものへと変わっていきました。
幼い少女に戻った彼女は、いったい何から逃げているというのでしょうか。そして家から出来るだけ離れなければならない理由があるようです。
「あなたは、いったい何から逃げなくてはならないのですか?」
私の質問に、彼女は一瞬、答えを探すように息を呑みました。
しかし、すぐその後、小さく首を振りながら、「わからない・・・怖い・・・見えそうで怖い・・・」と答えました。
「見えそうで怖い? 何かを見るのが怖いの?」
「うん・・・そう・・・見えたら怖い・・・」
彼女はつぶやくように答えました。幼い少女は、必死で何かを思い出すことを避けているようです。
私は、とりあえずこの少女を、この場から移動させることにしました。
「じゃあ、怖くなかった頃に戻ってみようか? いい?」
私の提案に少女は、こくんと頷きました。