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0298.食べるものは残飯



「パンを盗んで逃げた時・・・おじさんに連れて行かれた。悪そうな、ずるそうなおじさん。大きな屋敷に連れて来られた・・・

そして、下働きをさせられている。床掃除・・・1日中、床掃除・・・タイルの目は、4000枚・・・毎日、毎日磨いているから、全てのタイルを覚えてしまった。

おじさんはこの大きな屋敷の厨房の下っ端だったの。私を拾ってきて働かせている。ここはすごいお金持ちの屋敷。」

ジュリアンはどうやら野垂れ死ぬことはせずにすんだようです。しかし、ジュリアンの眉間には皺が寄せられています。

「それでは、食べることや寝ることには、困らなくてすんでいるの?」

という私の質問に、ジュリアンは頑なな表情で答えます。

「私は、残飯のような物を食べている。ここにはたくさんの人が出入りする。ドレスを着た人、着飾った人たち・・・パーティのようなものが開かれている・・・

その人たちの食べ残しをもらって、私は食べるの。寝るところは屋敷の裏口のゴミ捨て場。外で寝てるのとほぼ変わらない」

まだ幼いジュリアンは、まるで奴隷のような扱いを受けているようです。

しかし、ジュリアンは相変わらず心をどこかに置き忘れてきたかのように、淡々とうつろに自分のことを話し続けます。なんとかジュリアンの感情を引っ張り出そうと、私は話しかけます。

「ジュリアン、今、1番、あなたが欲しいものは何?」

「・・・パンが食べたい」

ぼそっとジュリアンは答えました。

「そう、パンが食べたいのね。それから? 森のことは考えたくない?」

そう問いかけた私に、ジュリアンは頭を大きく振りながら答えました。



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中野日出美
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