「いやだ! いやだ! 森のことは考えたくない!・・・・・・お母さん・・・トーマス・・・私が殺した・・・置き去りにした・・・苦しい・・・いやだ・・・思い出したくない!」
今まで平坦だったジュリアンの表情は一変しました。両手は固く握りしめられ、彼女の真っ白な手の甲には幾筋もの血管が浮き出ています。顔は苦しそうに歪み、歯を食いしばるようにして頭を右に左に振り続けます。
こんなに激しい彼女の変化をみるのは珍しいことです。私はこのジュリアンという少女の激しい一面を垣間見た思いがしました。それと同時に、ジュリアンにとって森の記憶は、激痛を伴うほどおぞましいものであることがわかりました。
それにしても、こんなに幼い少女を、このような働かせ方をして、誰も咎める人はいないのでしょうか?
「わかった・・・いいよ、もう思い出さなくていいよ。ねえ、ジュリアン、あなたの今の生活はとてもひどいものだけれど、誰か助けてくれる大人はいないの?」
「いないよ。私みたいな子供はたくさんいるもの。誰も気にかける人なんていない。」
「そう・・・ジュリアン、あなたはどの位このような生活をするのかしら?」
私のこの質問に、少し首をかしげるようにした後、ジュリアンは口を開きました。
「・・・私は今、11歳になった。相変わらずあの大きな屋敷で下働きをしながら、残飯をもらっているけれど・・・でも私は決心したの。娼婦になることを」