松本 功(まつもと いさお) 医師

この度、インナーアクセスヒプノセラピースクールの顧問医として、ヒプノセラピーの発展のために、精神科医療面から、微力ながらお手伝いをさせていただくことになりました。光栄に存じます。

私のヒプノセラピーとの出会いと学び、そして臨床にヒプノセラピーをどう生かそうと考えているか、などを少し述べたいと思います。

私は依存症専門の精神科医です。つねづね依存症の背景には心的トラウマや愛着の問題があり、そこを扱う必要があると考えていました。

依存症が治まったら、今度はその問題と向き合うことになります。たとえば、個人のレベルでは、複雑性PTSD、解離性同一性障害、摂食障害などの問題が浮上してきたりします。

さらに本人を取り巻く環境(エコロジー)、特に家族機能、共依存などのシステムに関わる長年に渡る問題が明らかになってきます。

そこでは薬物療法は対症療法に留まります。さらに薬物療法は、新たに処方薬依存や医療依存を作ってしまう怖れがあります。なぜなら、依存症というのは、個人では抱えきれない問題をアルコールやドラッグで蓋をしてきたわけですから、根本的な問題が解決されない限り、対症療法では形を替えて同じことを繰り返してしまう怖れがあるからです。

そこで、効果的な治療法を求めている時に出会ったのが、ヒプノセラピーの方法でした。解離性同一障害では、副人格を呼び出したり、人格交替して、トラウマを受けた人格を癒やしたりすることが可能になるのです。十分に得られなかった親と子の再交流ができます。

そこに至るには、相当のトレーニングが必要なこと、トラウマを扱う前にラポール形成、自我の安定化、リソース作り、エコロジーチェックなどの準備が必要なこと、などが当スクールでインナーチャイルド療法やパーツセラピーを学びだしてから分かりました。

しかし、根本的な治療の手がかりが得られたことは大きなことでした。幸い、私はサイコドラマに長年関わってきたので、舞台上での人格交替(サイコドラマでは役割交換と言います)、ペーシング(サイコドラマのダブリングに似ています)、統合などは経験しているので、関連して考えることができ、一層、関心を覚えました。

通常、ヒプノセラピーは、一般的にはノンクリニカルな適応になっていますが、精神医学や臨床心理学のベースの上に、トレーニングを積めば、クリニカルな面に対しても道が開けていることが分かりました。それも、そのはずです。パワフルな潜在意識に働きかけて、その治癒力を用いるわけですから、当然と言えば当然のことです。

もう一つ気づかされた大きなことは、いわゆる精神症状というのは、ある意味で、すでに催眠状態に入っている、と捉えることができるものもあるということです。そこで必要なことは、むしろ解催眠ということです。つまり、顕在意識をどう働かせるか、ということも、実は、催眠と同じくらいに重要なことが分かりました。

この顕在意識の理解には、交流分析がとても助けとなることも当スクールで学びました。交流分析と言うと、私はこれまで、エゴグラムなどの静的な理解の範囲に留まっていました。

しかし、臨床的に応用しようとすると、いま、ここでの瞬間、瞬間に変化する自我状態の分析や、やり取り分析、ゲーム分析、脚本分析など、全体を捉えながら動的にアセスメントしていくということが必要になってくる、ということも分かりました。

そして、セラピスト側も、クライエントに応じた自我状態でやり取りをしていく柔軟性が必要になることも学びました。

顕在意識だけでなく、催眠下の潜在意識において展開される場面においても、刷り込まれている「禁止令」や「ドライバー」を見出し、それらを解除し、効果的な再決断を得る、というように、交流分析によるアプローチが大いに役立ちます。そのような生きた交流分析を学ぶことができるのも、他にはない当スクールの特筆すべき特徴です。

今後は、トラウマ関連、モーニングワーク、グリーフワーク、愛着障害に対するreparenting、などへの応用を慎重に繊細に図り、メディカル面でのヒプノセラピーを展開していきたいと考えています。

そのためのネットワークを当スクールとともに築いていけたら、もっと人々の心に希望と誇りが生まれるようなお手伝いができるかな、と思っています。

【主な経歴・資格など】
精神科専門医
現在、特定医療法人群馬会 アルコール・薬物依存症専門病院「赤城高原ホスピタル」勤務
昭和57年信州大学医学部卒業

東京サイコドラマ協会認定サイコドラマティスト
AANZPA(Australian and Aorearoa New Zealand Psychodrama Association)準会員
プレイバックシアター日本校第2期生
平成23年バベル翻訳大学院(文芸・映像翻訳専攻)卒業。翻訳修士取得

EMDRパートII 修了。somatic experience初級修了。ホログラフィートーク・ベーシック研修終了。(いずれもトラウマ治療技法)

国際催眠連盟(IHF)認定ヒプノセラピスト
国際セラピートレーニング協会(ITTO)認定ヒプノティスト
米国催眠療法協会(ABH)認定マスターヒプノティスト
米国NLP教会認定NLPマスタープラクティショナー

【著 書】
『精神看護学I 精神保健学』共著、吉松他編集、廣川出版、平成9年
【訳 書】
『いのちのサイコドラマ』マックス・クレイトン/フィリップ・カーター著 松本功訳、群馬病院出版会/弘文堂、平成25年
『ロールトレーニング・マニュアル』マックス・クレイトン著 中込ひろみ/松本功訳、二瓶社、平成25年