夜と霧

ヴィクトール・E・フランクル著(みすず書房刊)

著者であるヴィクトール・フランクルは第2次世界大戦でアウシュビッツ強制収容所、ダッハウ強制終了所生活を強いられた医学博士であり、哲学者です。

フランクルの妻も、両親も弟も強制収容所で亡くなりました。

飢え、寒さ、残虐行為という絶えず命を脅かされる極限状態のなかで人間は2つのタイプに分かれると彼は言っています。

1つは生きることに目的を持つ人間であり、もう1つは目的を持たない人間です。

フランクルはニーチェの「生きる理由をもつ者は、どのような状況をも耐え抜く」という言葉を好みました。

そうしてもっとも過酷な状況にあってもなお、人間には状況をどうとらえるか選択し、そこに意味を見出す自由がある、というのが彼の論理でした。

彼は辛い収容所生活のなかで、生きる意志を与えてくれそうなことに思いをめぐらします。

常に妻の姿を心にありありと思い浮かべていたために目の前に小鳥が現れたとき、それが妻の化身に思えてしまうほどです。

また解放された自分が強制収容所での人間の心理について、講堂で聴衆を前に語っている姿を思い浮かべたりします。

このようにしながら彼は生き延びたのです。

彼は後にロゴセラピーという理論を生み出します。

フロイトなどの精神分析医が生きることを単なる衝動や本能の満足であるとし、アドラーが力への意志が人間の行動の源泉であるとしたのに対して、フランクルは生きる意味への意志を最も重要な人間の原動力であるとしたのです。

彼のこのロゴセラピーの理論は、私個人も大きな影響を与えらています。

たとえ、肉体や行動を束縛されたとしても誰一人として、自分の心の中を束縛できる者はいないのです。

自分の心の中だけは誰も侵すことができない唯一の場所だということを私に教えてくれた貴重な1冊です。

与えられた環境の中で、どのように生きていくか、また死んでいくのかを考えて実行しようとすることが人間として人間らしく生きるという意味ではないでしょうか。

心理学を学ぶ方はもちろんのこと、生きるということの原点を考えるすべての方にお勧めしたい本です。