5度目は、1つの魂が、きくと元道という2人に分裂していた前世でした。
ここで、魂のグループや、それぞれの魂の課題について学びました。
前世療法のセッション中には、実にさまざまなことが起こります。
セラピストとして活動している時の私自身は物質世界にも精神世界にも偏らずニュートラルな心を保つように心がけていますが、時として科学では証明できないようなことも体験することがあります。
彼女がセッション中、いつも同じ男の人がそばにいるように感じるというのも、もしかするとその次元での現象なのかなと考えました。
また彼女自身の心が生み出している幻想である可能性も考えていました。
彼女にその男の人が誰なのか知りたいかと私は尋ねてみました。
彼女は少し迷ってから、「はい」と答えました。
いずれにせよ、その存在が彼女にとって意味のあるものであることは間違いないだろうという私の心の声に従って、あえてその存在を探すための前世回帰をすることにしたのです。
そうして私たちは、彼女をいつも迎えてくれる「その人」の存在を突き止めるためのタイムトラベルへと出発することにしました。
彼女の潜在意識が誘導してくれた前世での最初の場面は、土を踏みならしたような小さな庭に面した日本家屋とおぼしき場所から始まりました。
「庭・・・です。広い庭園とかではなく、個人の家の庭です。その庭に面した部屋にはすだれが掛かっていて、今、そのすだれは上がっています。
庭に向かって文机があります。その机の上に長い巻物を広げて、何か書いています。
たぶん、自然光を利用して書き物をしているのだと思います」
「書き物をしているのが、あなたですか?」
「そうです。私です。私は髪がとても長いようです。両耳の前の髪を細い紐で結わえています。書き物をするのにじゃまにならないようにです。
朱色の袴のようなものをはいています。着物は重ね着をしています。一番上の着物は緑色です」
「あなたは今、何を書いているのですか?」
「・・・何かを写しています。何かを見ながらその字を書き写しているようです。何のために書き写しているのかはわかりません。
部屋には2人の女の人が座っています。・・・たぶんこの人たちは侍女だと思います」
「ではあなたの国は日本ですか?そしてあなたは身分の高い女の人なのですか?」
「日本です。私は田舎に住んでいます。田舎の貴族の娘のようです。家もそんなに大きくはありませんし。立派ではありません。でもそれなりの身分はあるようです」
彼女は日本で生きた前世へと初めてたどり着いたようです。
彼女が生きたこの前世での時代や生い立ちを知るために、私はこの前世での幼少時代へと導きました。
「私は5歳です。お父さんがどんどん遠ざかっていきます。
・・・お父さんは帰ってこなくなりました。
お父さんは政府の官僚のような仕事をしていたようです。殺されたのです。政略的に邪魔だったので殺されたのです。派閥争いです。
私はお父さんもお母さんも大好きでした。
お父さんは私のことをいつもきくの上と呼んでいました。でも本当の名前ではありません。
私の本当の名前はたぶん、きく・・か、きくのという名前だと思います。お父さんは一人娘の私をとても可愛がっていて、ふざけて、きくの上とお姫様のように呼んでいたのです。
とても私は幸せでした。こじんまりとした家でしたが何不自由なく暮らしていたと思います」
「お父様が亡くなってからはきくさんの生活は変わりましたか?」
「・・・お母さんの弟、私の叔父がこの家の後継人となりました。
そしてお母さんは尼さん?のようになりました。・・・在家出家というものらしいです。
剃髪して・・・お母さんの長かった髪は肩くらいに切られました」
いつもと変わらず彼女は、前世での生活を詳細にみているようです。
彼女は、私の質問によどみなく答えます。
いつものように細かく、わかりやすく説明してくれます。しかし彼女の驚くべき点は私の質問に答えてくれるだけではなく、催眠に入っている間中、答えてくれている何倍もの状況や光景を見たり、聞いたり、感じたりしているということです。
彼女は、いつも催眠から覚醒後に彼女が見たものや聞いたことを細かく私に説明してくれます。
それらの説明の中には当時の前世での人格の感情のディテールや、建物の中の家具の配置や、洋服の模様、調理器具や食器などの形やデザインなども含まれます。
まるでビデオカメラで録画しているかのように前世での体験が彼女の記憶には刻まれているようです。
この前世でも、こじんまりとした家とその小さな庭にやってくる鳥たちの可愛らしいさえずりや庭をぐるりと囲んだ垣根の様子をはっきりと彼女は、言葉で描写してくれました。
彼女の場合は最初のセッションからこのような能力がありました。
しかし多くのクライアントさんの場合は何度か催眠を経験していくうちに少しずつ明瞭に前世を体感する人が多いように感じます。
「食事は1つずつワイングラスのように足がついた食器でいただきます。小さな御膳というか、よく旅館などの食事の時に出される小さなテーブルのようなものに1人ずつ配膳されます。
雑穀米のようなものと山菜・・・ぜんまいとかそういうものと・・汁とお漬物です」
「そう、喜久乃さんの好物はなんですか?」
「・・・くるみを黒糖でコーティングしたようなお菓子が好物です」
私はコーティングというこの前世の時代にはなかったであろう言葉が、ほほ笑ましく思えました。
「それは誰かが作ってくれるものですか?」
「いいえ、買うようです。そういう物売りが定期的にやって来るのです」
「普段は誰かと遊んだりするのですか?」
「侍女と・・・でもその侍女たちもみな身分の高い家の娘さんたちです。身の回りの世話や話し相手になってくれたり、一緒にお勉強をしたりします。掃除や選択や食事の支度などは別の立場の女の人たちがやります」
私は今までになく前世での彼女の生活が豊かで安全であることに、ほっと胸をなでおろしていました。
まだ今のところ「いつもの人」らしき男性は現れていないようです。
そこでその前世での時をもう少し進めてみることにしました。