彼女はさらに、とても機知に富んだ魅力的な人物の前世へと旅立ちます。
それは、チェチュンという中国人の男性でした。
彼は生まれつき手に障害がありましたが、天から降りてくる言葉で人に幸せを贈る
類まれな才能に恵まれていました。
私と彼女とのセッションは、その後も長い時を経ながら、重ねられました。
前世療法のセッションでは、実にたくさんの彼女の前世の人格と出逢い、多くのメッセージを共有させていただきました。
また彼女は、前世療法だけではなく、未来世療法、サブパーソナリティ療法など、多くの療法を受けています。
未来世療法においては、大変興味深い未来を催眠下において経験し、次々とそれらが現実の世界で実現していく様を、私もやや畏敬の念を持って見守ってきました。
それらの未来世療法の記録は、また次の機会にお話しするとして、ここではまた彼女のもう1つの別の前世を、ご紹介したいと思います。
この前世が、今までご紹介した彼女のたくさんの前世と違う点は、前世の人格が、とても機知に富んだ魅力的な人物であること、また大きな意味で、彼女の魂がある使命を果たしたということでしょう。
深いトランスに入り、寝息ほどの呼吸の気配さえ感じさせない鎮まりかえった身体と、恐ろしいほどに鮮明で鋭敏になった感覚の中、彼女は話し出しました。
「・・・とても高い場所にいます・・・あれ? 私は人間ではありません・・・
鳥のようです。羽を動かしています・・・上から下の方を見てます・・・緑が見えます・・・山も道も・・・私は鳥です・・・」
今までのたくさんの前世療法セッションの中で、彼女は今回の人生と同様、人間としての一生を体験してきました。
しかし、今回は、彼女は自分のことを鳥だと言います。
前世療法を受けて、人間以外の生き物であった時の前世をみる人もいますが、彼女の場合はこれが初めてのことです。
私も少し驚きましたが、彼女自身も戸惑っている様子です。
「あなたはどんな鳥ですか?」
「・・・鳩みたいに見えます」
「そうですか・・・もっとこの人生を詳しくみる必要がありますか?」
「いいえ。もう私は死にます・・・大きな鳥に食べられます・・・」
あまりにも呆気ない1つの前世の終焉です。
「この人生にどんな意味があるのですか?」
「・・・それが・・・わからないのです、私にも。何故こんな前世が出てきたのでしょうか・・・」
めずらしく前世の課題も、この前世にたどり着いた意味もわからないと、彼女は言います。
私自身も結局、その意味を引っ張り出せないもどかしさを抱えたまま、さらにセッションを継続させることにしました。
ところが、このセッションの最後に、この鳥であった時の前世を体験した意味がはっきりとわかることになるのです。
この時点では、私も彼女も、まったくその意味に気づくことは出来ませんでした。
さらにトランスを深める手法を使うと、彼女はとたんに深い意識下の中へと入っていきました。
「・・・靴・・・靴の先が・・・くるんと上向きになっている靴を履いています・・・
私の年は・・・30代か40代で、ヒゲがあります・・・
目が細くて・・・紫色のゆったりとした服・・・白の長ズボン・・・
それにヘンな帽子を被っています・・・平べったくて、形が六角形か・・・うん?五角形・・・?おかしな帽子・・・帽子の後ろに布か紙のような物が垂れています・・・
そして・・・私はとても背が低い・・・とても小柄・・・大人だけれども、とても小さい・・・異常に背が低い・・・
髪は・・・長くて三つ編みにして後ろに垂らしている・・・服の袖口がとても広くて、手を交差に袖の中に入れています・・・」
彼女の潜在意識が連れて行った場所での前世の人格の風貌は、少し風変わりな男性のようです。
前世に入ってみて、自分自身が今までになく風変わりな男の風貌をしていることに、彼女は少し戸惑っている様子です。
首をかしげるような仕草をわずかに見せながら、彼女はボツボツと話していきます。
いつにないそんな彼女の様子が何だかおかしいような、またいつもとは違った前世の予感のような期待を感じながら、私は誘導を続けました。
「今、あなたはどんな所にいるのですか?」
私の質問にすぐさま彼女は答えます。
「私はとても長い塀に沿って歩いています。この長い塀の中は大きな建物があります。塀は白塗りの漆喰です・・・
それから、この塀の上には何か・・・瓦屋根のようなものがついています・・・なんというか、名古屋のしゃちほこのような・・・金色の角みたいなものがついています」
自分で話しながら、自分の話している内容に、ますます混乱している様が彼女の表情からうかがえます。
「あなたは、何のためにその塀に沿った道を歩いているのですか?」
混乱しつつも、数秒と間をおかず彼女は答えます。
「私は、いつもこうして散歩をしながら考えるのです。
人生の意味を・・・」
彼女の表情は困惑から確信へとはっきりと変化しました。
そして私も、いよいよ彼女が、この前世での核心に入ったことを察知したのです。