少女は、洞窟に閉じ込められて、死んでいった、
12歳の女の子であった
前世を思い出します。
一人でいるのが怖いという恐怖症の理由の手がかりを得たのでした。
「今、どこにいるのですか?」という私の問いに、
「穴の中です。・・・いえ、洞窟の中です。真っ暗です。とても、ジメジメした場所です。私の他にもたくさん人がいます」
彼女は緊張した面持ちで話し出しました。しかし、今度は怖がらず、冷静にその前世を追体験しているようです。
口調は穏やかで、そして、ささやくように小さな声で私の質問に答えていきます。
「私は女の子です。年齢は、12歳です。髪の色は明るい茶色だと思います。周りには病気の人もたくさんいます。息絶え絶えの人も何人かいます。
洞窟の中の人たちはみな、老人か子供か女性ばかりです。この洞窟には、出入り口などはありません。密閉されているようです。そして、真っ暗です。
私は喉がカラカラでもう死にそうです。もうだめだと思います。」
彼女の顔は苦痛にゆがんでいました。まぶたはぴくぴくと痙攣し、あちらこちらを見回しているようです。
「どうして、その洞窟にいるのですか?」との質問に
「閉じ込められたからです。他の部落の人たちが私たちの部落に攻めてきて、私たちをここに閉じ込めたからです。弟も一緒です。私は、弟を守りたい。でも、もう弟の唇はカラカラに渇いて死んでしまいました。」
そこで、私は彼女にその前世での細かい状況を聞いていきました。
「はじめは、その洞窟はちゃんとした出入り口があって、そこから敵の兵士が水などをくれました。しかし、ある日、大きな岩でその出入り口を外側から閉じられてしまいました。洞窟の前には兵士が二人立っていて、私たちを見張っています。」
彼女の閉じられたまぶたは、ぴくぴくと動きまるで、目をつむりながら、あたりを見渡しているかのようです。
「閉じ込められた洞窟の中は、水もなく、光もなく、ジメジメした不衛生な環境のため、すぐに病気が蔓延し始めました。周りの人たちは最初は混乱し、気が狂ったように叫び続けたり、泣き出したりしていました。」
「でも、時間が経つにつれて、静かになっていきました。それは、みんなが、徐々に弱ってきたからです。
怖がる弟を最初は勇気づけていたのですが、弟はまだ幼く、すぐに衰弱し始めました。私にできることは何もなく、励ますことしかできませんでした。
弟が動かなくなって少し経ったあと、私も自分が死に近づいていることに気づきました。喉が渇きすぎて、唇はかさかさになり、喉の奥が張りつくような感覚に苦しめられています。」
実際、催眠中の彼女のくちびるは乾き、何度も、ごくりと唾を呑み込むようなしぐさをします。
「私は若かったので、周りの人たちよりも長い間生き延びました。どうして、こんなめにあうのだろうかと思っています。
何も悪いことをしていないのに・・・・。
あるとき突然、違う部落の人たちが攻めてきて、わたし達は、あっという間にここに閉じ込められました。」
彼女は眉間にしわを寄せながら、しわがれたような声で話します。
「初めは老人などや小さな子供たちが、下痢をしたり、吐いたりし始めました。洞窟の中はひどい臭いです。でも、すぐに気にならなくなります。慣れてしまうのです。そうして、徐々に衰弱して、死んでいきます。
弟が生きているうちは、なんとか逃げられないだろうかと考えていました。でも、弟が死ぬことを悟ってからは、あきらめました。
私は、弟がぐったりと衰弱し始めてからは、もう、弟にがんばって欲しいとは思いませんでした。
なるべく、早く、楽に弟が死んでいけたらいいのに。と考えていたのです。」
また、ここで彼女は涙ぐみます。
「そして、今では、自分も早く楽になりたいと思っています。もう、洞窟のなかの誰もがあきらめきっていて、小さな子供が死んでも、母親も叫びだしたりはしません。ただ、呆然としています」
ここからは、彼女のこの前世での洞窟に閉じ込められる以前の生活を聞いています。
「ブロッコリーみたいな森が見えます。私は、長い草のたくさん生えた崖の上から、森を見下ろしています」
「円錐状のテントで私たちは暮らしています。何個かの家族が1ヶ所にかたまって、小さな部落を形成しています。私には、優しい父と母とまだ小さい弟がいます。お父さんは、顔中が髭で覆われています。お母さんは、額に細い布を巻きつけています」
彼女はここでお母さんが額に巻きつけていた布の模様をはっきりと思い出し、催眠からさめた後に私に教えてくれました。
まるで、折れ線グラフのような直線的な模様で、テントにも同じ模様がついていたようです。彼女自身も額にその布を巻きつけていたようです。
「私は走ることがとても好きです。いつも森の中を駆け抜けるようにして遊んでいます。お母さんは、私の名前を呼んでいます。でも、今の私には、その名前を発音できません」
彼女はここで「キャベッツア・・・とかそういう風に聞こえますが、うまく発音できません」と言っています。
「部落の男の人たちは狩りに出かけ、獣の肉をとってきます。それを鍋で煮て食べるのです。食事はいつもそのような感じです。
お父さんは、食事をしながら、よく私に星のことや、人の生き方について教えてくれました。私は、お父さんが好きです。
そのうち私は、11、12歳になり、同じ部落の男の人との結婚の話も進んでいました。母のようにこれからも生きるのだとみじんも疑っていませんでした。
しかし、ある時、別の部落の人たちが私たちの部落に突然、攻め入ってきて、私と弟の目の前で、父と母を袈裟懸けに刃物で切りつけ、私はたくさんの血しぶきを浴びました」
彼女はこのとき、敵の部族が使っていた武器について、説明してくれています。
「農業をするときに使う鎌のような形のものや、石を鋭く研いだ剣のようなものです。でも、それは多分武器ではなく、普段、仕事や生活に使っていたものだと思います。
私も殺されると思ったのですが、何がなんだかわからないうちに、他の生き残った人たちと共に洞窟に閉じ込められました。泣きじゃくる弟を抱きかかえて、なだめるのに必死でした。
彼らは、私たちを飢え死にさせて殺すつもりだったようです。男の人たちはほとんど切りつけられて殺されました。しかし、弱い老人や子供などは、洞窟に閉じ込めて穴を塞ぎ、死ぬまで開けないようにしたのです」